マズローの欲求ピラミッドとケンリックの新しい欲求ピラミッド / 野蛮な進化心理学
「野蛮な進化心理学」を読んだので、一番興味があったケンリックの新しい欲求ピラミッドの部分をメモっておく。
マズローの欲求ピラミッド
もはや常識になっているマズローの欲求ピラミッド(自己実現理論)。
この考えはある程度理にかなっているように見えるので、多くの人が賛同して自己分析やマーケティングで使ったりしている。
例えば、マネジメント系の本で評判が良い「HIGH OUTPUT MANAGEMENT」においても、マネージャーと部下のモチベーションの関係についてマズローの理論を用いている。
何が人に仕事をさせるかということについての私の説明は、モチベーションに関するエイブラハム・マズローの理論を強いよりどころにしている。
その理由は単に職業生活に関する私の観察がマズローの概念と一致しているからにすぎない。
アンドリュー・S・グローブ. HIGH OUTPUT MANAGEMENT (Japanese Edition) (Kindle の位置No.2920-2922). Kindle 版.
てな感じで、一般的に使われることが多いので、自分もすんなり受け入れていた。
ケンリックの欲求ピラミッド
マズロー以降の研究で学んできたことを活かして、21世紀向けに改築をしたピラミッドがケンリックの新しい欲求ピラミッドになる。
マズローのピラミッドの問題点については、こちらの記事でとても面白く説明されているので参考に。
3つの重要な違い
ケンリックの欲求ピラミッドは、マズローのものと比べて3つの重要な違いがある。
1. 頂点という聖域から「自己実現」が追放
ここが、自分にとっても最も衝撃的な変更だった。
人は、生活に必要な欲求が満たされたら、最終的には自己実現に向かって高尚な努力をしていく生き物だと信じていたい気持ちもあった。
進化機能という観点から考えると、自己実現の大半はピラミッドの中の「承認」というカテゴリーにきっちり収まるというのが、ここでの変更点の理由だ。
よく、「承認欲求が高い人」というネガティブなレッテル貼りをされるケースもあったりするが、なんだかんだで人間は承認をされることが繁殖成功率を高めるために重要。
そういったレッテルは、承認欲求を目立たないようにうまく誤魔化せてる人と、むき出しで誤魔化せてない人の違いなのかもしれない。
2. ピラミッドの上部が、繁殖に関連する3つの新しい動機で占められている
ここの変更は、生活史理論と呼ばれる生物学の理論から導かれたものになる。
自分の価値観リストで「家族」が最も上位のに位置にあるのも、遺伝子がそう考えさせている気がしてならない。
3. 動機を積み上げるかわりに、互いを重ね合わせたこと
ピラミッドをよく見ると、新しい欲求ピラミッドの方は、下位カテゴリが薄〜く上位カテゴリに重なっている。
というのも、自己実現や子育てをしている間も生理的欲求や防衛反応はその時々に応じて働いており、人間はみな多重人格者であるとみなしている。
これは、心のモジュール性でも言われていて、人間の心を単一の善/悪といった物差しで見るのではなく、その時置かれた状況に応じて発動する心のモジュールが異なると考え方に基づく。
私たちはふつう自分の行動の根底にある動機に気づいていない
本書で批判対象としているマズロー、フロイト、スキナーの主張であるが、この3人にも意見が一致する点が一つある。
それが、「私たちはふつう自分の行動の根底にある動機に気づいていない」で、いわゆる自己欺瞞である。
(上の書評で紹介されている本はまだ読んでないので、今度読もう)
本書では例として、以下のように述べられている。
機能的な面で見れば、あらゆる行動は密接に結びついている。食べること、飲むこと、夜に危険な場所に近づかないことは、すべて結婚するまで生き残るという高次の目標のためだ。他人と仲良くし、尊敬を得ようと努力するのは、配偶者を見つけるという高次の目標のためで、配偶者を見つけ、その配偶者と一緒に暮らそうとするのは、子供をもうけるという高次の目標のためだ。また同様に、子供の面倒を見るのは、自分の包括適用度を高めるという高次の目標のためである。
野蛮な進化心理学 p161
まとめ
というわけで今後は、マズローの欲求ピラミッドからアップデートされたケンリックの欲求ピラミッドを参考にしていく。
ただし、ケンリックの欲求ピラミッドについても「人間の心・完全版!」というわけではない。
また新たにアップデートされていくものだと考えて、鵜呑みにしていかないようにする。