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ゲーム開発やってます

コモンズの悲劇とガチャの悲劇

行動経済学も学んでおきたいと思ったので、「予想どおりに不合理: 行動経済学が明かすあなたがそれを選ぶわけ」を読んだ。

ちなみに、進化心理学の面白いnote記事の中では下記のように書かれている。

note.mu

近年、この従来の経済学の見方を批判して、「行動経済学/Behavioral economics」が勃興してはいるものの、この新しいタイプの経済学者たちはようするに、「ヒトは合理的ではない」ということを(揚げ足取りのように────いや揚げ足をとるのは大事なんだけど)、状況ごとにパターン化して、リスト化している人たちのことを指す。

行動経済学者たちがこれまでに発見してきた「認知バイアス/cognitive biases」は90種類以上にも及ぶ。

lelang.sites-hosting.com

例えば、「ダニング=クルーガー効果」は有名な認知バイアスで、能力の低い人物が自らの容姿や発言・行動などについて、実際よりも高い評価を行ってしまう優越の錯覚を生み出す認知バイアス

ダニング=クルーガー効果 - Wikipedia

予想どおりに不合理: 行動経済学が明かすあなたがそれを選ぶわけ」では15章構成になってて、それぞれの章で異なる認知バイアスを取り上げている。

1個1個が面白いなぁと思ったので、それぞれ印象に残った章をまとめていく。

12章 不信の輪 ~なぜわたしたちはマーケティング担当者の話を信じないのか~

よくある「無料!」という広告に誘われて行ってみると、個人情報を取られたり、複雑な条件付きで結局セット商品を買わせるなどの嫌な経験を多かれ少なかれみんな経験していくと思う。

こういったうさんくさい勧誘やあくどい商売のニュースが蔓延している社会では、人間の認知の間にどんどん「不信の輪」が広がっていく。

コモンズの悲劇

ja.wikipedia.org

コモンズの悲劇とは、多数者が利用できる共有資源が乱獲されることによって資源の枯渇を招いてしまうという経済学における法則。共有地の悲劇とも言う。

実際にコモンズの悲劇が起こる条件としては、下記のいずれの条件も満たす必要がある。

  • 共有地がオープンアクセスの場合
  • 共有地の資源が希少資源で枯渇する場合に尽くされてしまう場合

このコモンズの悲劇を読んで、まっさきに「スマホゲーム業界」が頭の中に思い浮かんだ。

toyokeizai.net

上の記事にもある通り、日本のスマホゲーム業界の市場は飽和気味になってきている。

ただ、スマホゲームに費やされるお金自体は別に希少資源で枯渇するものでは無いかなと思った(お金が市場から消えさることは無いし)。

自分が何となく感じたのは、スマホゲームに対するユーザの信用度が希少資源で枯渇する恐れがあるんじゃないかということ。

例えば、一社が抜け駆けしようとしてガチャで不正行為などを行うと、ガチャに対するユーザの不信の輪が広がり、ゲーム業界市場を共有しているゲーム会社全体がデメリットを受けてしまう。

toyokeizai.net

gigazine.net

blogos.com

そういった抜け駆けをさせないように色々な協会が立ち上がってルールを決めているけれど、人間は短期的な利益や目先の必要にばかり注目しがちなバイアス(双曲割引など)があるため、そううまくはいかない。

双曲割引 - Wikipedia

プレッシャーなどに追われたり不正をしてもバレなさそうな状況下に置かれると、人間は不正行為をやってしまいがちなバイアスがある。

www.msn.com

公共財ゲームから見る、人間が好きな他人への罰

公共財ゲームや最後通牒ゲームなどの実験をやってみると、人間がいかに他人への罰を好むのかが分かる。

こちらの日本心理学会が発行している記事が面白く参考になった。

psych.or.jp

理論的には罰による社会的ジレンマの解決は困難であるが,現実の人間は自己利益を顧みず積極的に利己主義者を罰することが行動経済学などの実験研究で示されている。


公共財ゲームと最後通牒ゲームでは,利己主義者を罰する者は利己的行動の直接の被害者であった。これに対し,「第三者罰ゲーム」を用いた実験研究は,人々は直接の被害者の立場でなくても,利己主義者を罰する傾向にあることを示している。


これらの例からもわかるように,現実の人間は自己利益を犠牲にしてでも利己主義者に対して罰を行う。


利己主義者を罰することで「不公正な扱いをされたら必ず復讐する」ことを周囲に信じ込ませれば,将来に渡って不公正な扱いをされ続けないで済む。逆に罰のコストを惜しむ人間は,周囲から不公正な扱いをされ続ける結果に甘んじることになってしまう。このように,他者に強さを示すことが必要な文脈では,利己主義者を許さない人間であることの評判は有利に働くと予想される


その一方,強さの誇示は親しみにくい人という評判をもたらすことで,相互作用の相手として避けられるデメリットを伴うことも予想される。

また、この「利他的な罰」について、進化心理学クラスタの人がツイートしていて印象に残っている。

利他的行動は高尚な意識高い系の行動とも思われがちだけど、脳内でそれが生存に有利な行動だから行われているとも考えると奥が深い。

利他的行動 - Wikipedia

タイレノール殺人事件とジョンソン・エンド・ジョンソンの対応

一度人々の中に不信の輪が広まったらもうダメなのか?というと、それを何とか切り抜けた例もある。

タイレノール - Wikipedia

1982年9月29日、シカゴ近郊のイリノイ州エルクグローブ村の12歳の少女が「タイレノール・エクストラ・ストレングス」のカプセルを服用したところ、混入されていたシアン化合物によって死亡。以後計5瓶のタイレノールによって、計7名の死者を出した。この他に毒物が混入された3瓶が回収された。事件は未解決で、この後シカゴ周辺では、1986年にエキセドリン殺人事件と多くの模倣事件が発生した。

この事件で、ジョンソン・エンド・ジョンソンは「タイレノールにシアン化合物混入の疑いがある」とされた時点で、迅速に消費者に対し、125,000回に及ぶテレビ放映、専用フリーダイヤルの設置、新聞の一面広告などの手段で回収と注意を呼びかけた(1982年10月5日、タイレノール全製品のリコールを発表)。およそ3100万本の瓶を回収するにあたり約1億USドル(当時の日本円で約277億円)の損失が発生。事件発生後、毒物の混入を防ぐため「3重シールパッケージ」を開発し発売。この徹底した対応策により、1982年12月(事件後2ヶ月)には、事件前の売上の80%まで回復した。

ジョンソン・エンド・ジョンソンには「消費者の命を守る」ことを謳った「我が信条(Our Credo)」という経営哲学があり、社内に徹底されていた。緊急時のマニュアルが存在しなかったにもかかわらず、迅速な対応ができたのはこのためである。

この事件は、危機管理における対応策の定石として認識されている。

自分の中で任天堂の企業イメージがずっと良いのも、任天堂のサポートが神対応を続けていてそれをユーザが拡散しているのが大きいのかなぁと思う。

togetter.com

まとめ

オオカミ少年の話」がシンプルな教訓になっていて、最初のちょっとした不正はバレずにうまくいってしまうが、一度不正を知られてしまったら不信の輪が広がってしまい信用を取り戻すのは難しい。

ゲームが好きでゲーム業界にいる自分としては、双曲割引のバイアスに陥らず、長期的な視点を持って誠実にゲームを作っていきたいなと思った。